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Blossfeldia liliputana

松露玉

Blossfeldia liliputana 松露玉

世界最小のサボテン、“松露玉”ことブロスフェルディア・リリプタナ

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一無二の不思議サボテン、“ブロスフェルディア・リリプタナ”です。


南アメリカ大陸西側に沿って連なるアンデス山脈の一部、アルゼンチン - カタマルカ州からボリビア - ポトシ県にかけての南北1,200kmの広い範囲が原産です。
標高1,000-3,500mの範囲に存在する垂直に切り立った崖や岩肌の斜面に自生しています。
自生地では岩の割れ目や窪みにわずかに溜まった土や、苔・地衣類などの有機質の堆積物に潜り込むように生えています。

属名の 'Blossfeldia' は、このサボテンの発見者でもあるブラジル在住のドイツ人植物学者、ハリー・ブロスフェルド博士(Dr. Harry Blossfeld Jr)の名をとって命名されました。

種小名の 'liliputana' は、ガリバー旅行記にも登場した小人の国、リリパット王国(Lilliput)に由来しており、ブロッスフェルディア・リリプタナの小さな風体から命名されたようです。
日本では“松露玉”(しょうろぎょく)という古風で粋な和名が与えられています。


“世界最小のサボテン”というキャッチーな特徴でも有名な小型種で、珍奇サボテンの極みとも言える種です。

中央の凹んだ潰れたアンパンのような扁平な球体は、自然環境下では最大で1cmほどの大きさにしか成長しません。

むっちりとした艶めかしい質感をした表皮は灰緑色をしており、サボテンらしいトゲや硬い表皮がないため一見するとサボテンには見えません。
キノコや粘菌の一種のようにも見える異様な風体ですね。
ですが表皮に点在する僅かな刺座(アレオーレ)が、この植物がサボテン属(Cactaceae)であることを証明しています。

基本的に単頭のサボテンですが、株が成長の限界を迎えると根元や球体から仔吹き、群生することもあります。
成株になると、ほぼ球体と同じぐらいの大きさの淡黄色から白色をした小さな花を咲かせます。
なお、ブロッスフェルディアは自家受粉して種を実らせることができます。


奇妙な見た目のみならず、その生態も非常に変わっています。

多くのサボテンは乾燥から身を守るために体内に水分を蓄え、水分の蒸散を防ぐために硬い表皮やトゲ、綿毛などをまとって身を守りますが、ブロスフェルディア・リリプタナはそういった脅威に対してあまりに無防備な形態をしています。
過酷な自然に対して、その剥き出しとも言える特殊な姿・形には大きな理由があります。

ブロスフェルディア・リリプタナの自生環境は極度の乾燥地帯でもあり、年間を通してほとんど雨が降りません。
一年のうちの僅かな期間に吹く季節風によって発生する霧ぐらいしか水分を得ることができないため、ブロスフェルディア・リリプタナは多くの期間はカラカラに干からびたように乾燥し、仮死状態となって過ごしています。
そして霧の発生する季節になると、球体の表面から水分を吸収し、僅かに膨らんだ状態になるようです。
一見脆弱にも見えるその表皮は、僅かな水分を最大限吸収するために進化した結果だったのです。

これは周囲の湿度によって植物の細胞の含水率が大きく変わる苔などの変水性植物(ポイキロハイドリック:poikilohydric)と非常によく似た生態を備えており、その他の多くのサボテンとは逆説的なアプローチによって乾燥に対して適応していると言えます。
実際ブロスフェルディア・リリプタナの自生環境には、年間のほとんどを仮死状態で過ごす苔や地衣類ぐらいしか育っていないため、種は違えど同じような形態となった収斂進化(しゅうれんしんか)の良い例ですね。


“世界最小のサボテン”という称号があるため、サボテンマニアの間ではその存在は有名ですが、その他の硬質サボテンに比べて個体差による容姿の優劣や、“芸”(斑入り、石化など)もほとんど出ないため、ごくごく一部の珍奇サボテン愛好家の間で静かにひっそりと育てられているだけです。
また特異な生態をしているためか栽培は難しく、長期栽培は困難な種でもあるため、育てられていたとしても継ぎ木株がほとんどです。

ただし継ぎ木で育てた場合、球体もパンパンにボール状に膨らみ、不自然なほど仔吹くため、本来の形状とはおおよそかけ離れた姿となってしまいます。
“松露玉”という和名にふさわしい“侘び寂び”に通ずる雰囲気を楽しみたい場合は自根株を入手しましょう。
ちなみに実生で育った株はわずかですが小さな塊根を形成します。

成長は非常に緩慢で、実生で育てた場合は1-2cmほどの大きさに育つにも8-10年ほどの年月が必要です。
なお自然環境下では最大直径は1cmほどですが、栽培環境下では2cm強まで育ちます。

ブロッスフェルディア属は他にも8種ほどが独立した種として知られていましたが、形状的にも僅かな違いしか認められず、現在ではすべて本種のシノニム(同種異名)や変種未満の地域変異とされています。
よって、いずれ本種は属中一種のサボテンとされるのではないでしょうか?

ほとんど流通することはありませんが、珍奇サボテン好きにはたまらない多くのユニークな特徴を持った一種です。


【科・属】

Cactaceae Blossfeldia
サボテン科ブロスフェルディア属

【原産地】

アルゼンチン - カタマルカ州からボリビア - ポトシ県にかけて

【置き場所】

年間を通して明るい場所で管理します。
ただしブロスフェルディア・リリプタナは強い日光は嫌い、球体が焼けたり株が弱って枯死してしまいます。
寒冷紗などで適度に遮光した環境や、日照時間を調整して管理しましょう。

とくに真夏の西日や、長期間断水する冬は日焼けやすいので注意しましょう。
ただし、あまりに日光が不足すると球体が徒長したり、腐敗してしまいます。

またブロスフェルディア・リリプタナは蒸し暑さを嫌うため、風通しの良い場所で管理します。

【水やり】

春から秋にかけての、気温が高い時期に成長します。
水やりは一般的なサボテンよりも少なめに与え、やや乾燥気味に管理したほうが本来の生態に近い姿となります。

ただし、ブロスフェルディア・リリプタナは非常に根が少なく、球体の大きさの範囲にしか根を張りません。
そのため用土は細かい土を用いて少なめにし、水やりした後は長時間湿ったままとならないようにしましょう。

その特異な形態からか、ブロスフェルディア・リリプタナは根から水分を吸い上げる力は弱く、球体の表面からも水分を吸収しています。
そのため、用土を湿らすような水やりは数カ月から月に一度、その他は霧吹きなどで球体を湿らすように与えても良いかもしれません。

寒さが厳しくなる寒冷期は基本的には断水気味に管理します。
休眠期でも小さな株は細根が枯れないように、ごく少量の水やりをする場合もあります。
休眠期中に水やりする際は、天気の良い暖かい午前中にごく少量だけ水やりしましょう。

【肥料】

成長期に数度、ごく薄めた液肥を与えます。
用土によく醗酵した有機質肥料や、マグァンプKなどの緩効性肥料をごく少量混ぜ込んでおいても良いと思います。

【適温】

ブロスフェルディア・リリプタナは断水した状態ではかなりの寒さに耐えることができます。
ただし小さな株や、日照時間が短い場所で管理する場合は暖かい場所で越冬した方が安全です。
冬の寒さよりも夏の蒸し暑さに気をつけましょう。